センター長あいさつ

>> English
デジタルヒューマン工学研究センター
センター長
金出 武雄

デジタルヒューマン工学研究センターの目標

「人間」はほとんどの産業システムおよび製品にとって、それを利用する対象として設計され、あるいはまたその性能を定める根本的な部品として、もっとも重要な要素です。 例えば車は人を運び、人に運転されます。 しかし「人間」はこのようなシステムにおいてもっとも理解の進んでいない対象といえます。 人工的に設計・生産された部品では、その形状・構成・機能について最先端の数学的・計算機的なモデルが開発されています。 しかるに遙かに複雑で洗練された人間の機能とその行動に関するモデルはほとんど存在していません。 このような意味で人間はシステムの中で"もっとも弱いリンク"であると言えます。

デジタルヒューマン工学研究センターの目的はこのギャップを埋めることにあります。ここでは計算機上に人間の機能を実現し、それを利用して人間の機能と行動を記述・分析・シミュレート・予測することを目的として、人間の計算機モデルを開発しています。このような技術は人間に係わるありとあらゆるシステムを設計し運用する上で、より個人に適合させ、より簡単に使えるようになり、より調和的にするために、重要になってきます。

デジタルヒューマンの3つのモデリング軸

人間は多くの機能を持っています。 デジタルヒューマン工学研究センターではこれらを3つの軸として分類しています。 最初の軸は生理・解剖学的な機能です。生物として人間の体は多くの構成要素・器官・循環器を制御しています。 生理・解剖学的な人間のモデルは形状・物質的特性・生理学的パラメータとそれらと内部的・外部的な刺激との関係から記述されます。 次の軸は運動・機械的な機能です。人間は歩いたり走ったり、移動したり物を扱ったりします。運動・機械的な人間のモデルは人間の運動の機構的、動力学的、行動学的な分析により記述されます。最後に人間は感じ・考え・反応し・対話します。認知・心理的な人間のモデルは人間が外界の事象、他の人間、環境などに対する認識的・心理的な行動を取り扱います。

これらの3つの軸は当然のことながら独立ではありません。人間のデジタルヒューマンモデルはこれら3つの軸を統合することにより達成されます。ただいかに深く関係があるとはいえ、人間の構成と機能を研究するのに、例えば細胞や神経、遺伝子やタンパク質と言ったもっとも細かい構成要素から積み上げなければならないわけではありません。デジタルヒューマン工学研究センターの焦点は人間の機能そのもの、すなわち機能がどうなっていて、どのような時に発現し、どのように係わるか、という点にあります。

デジタルヒューマンの3つの構成要素

計算機モデルは人間の機能を記述します。これ以外に2つの技術がデジタルヒューマン研究とその応用に必要となります。人間を実環境の場において、可能な限り人間を妨げずに精密に計測する手法です。心理的な計測・モーションキャプチャによる運動計測・形状計測・表情分析などがこれにあたります。デジタルヒューマンモデルを利用する応用分野においては、このような観測技術は計算機モデルを駆動するための入力となります。計算機上の仮想人間が実世界の人間と対話する際には、人間の表情やジェスチャーを理解する観測技術が必要になります。反対に仮想人間の出力は音声や視覚的、力覚提示装置などの提示技術が重要になります。われわれは三次元音場、三次元グラフィック技術、力覚提示装置からヒューマノイドロボットを提示技術の対象として研究しています。これらモデリング、観測、提示技術の3つがデジタルヒューマン研究の3つの構成要素となるのです。

従ってデジタルヒューマン工学研究センターの研究対象は以下の図に示すような3つの人間の機能と3つの構成要素のマトリックスとして表されます。

fig.1