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研究内容

平均形状に基づいた衣服設計用人台

人台はマネキン人形ではありません。 立体裁断により衣服の型紙を作るための道具です。 ですから、型紙の製作にとって重要なバスト、ウエスト、ヒップの寸法は、婦人用衣服のサイズに関するJIS規格で決められた寸法と一致しており、人体に近い形状をしています。 しかし、従来の人台ではバスト、ウエスト、ヒップの断面形状や、それらの断面の間の形状は、手作業で作られていました。 このため、実際の人体の形状とは違っており、製作者の主観と経験に依存していました。

デジタルヒューマン研究センターでは、文化服装学院との共同研究により、現代の若い女性の形状を計測し、その平均形態に基づいて新しい人台を作成しました。 したがって、この人台は寸法だけでなく、形状も最近の若い女性の体形を反映したものになっています。 平均形態を求めるために、デジタルヒューマン研究センターで開発した手法を使っています。 図1左の新しい人台と、図1右の既存の人台を比べると、形状の違いがはっきりわかります。

新しい人台と既存の人台
図1: 新しい人台(左)と既存の人台(右)

人台の開発

今回完成した人台は、以下の方法で開発しました。

計測

衣服サイズがJIS9ARに相当し、身体にゆがみや左右不対称の少ない美しい体型の青年女性を選んで体幹部の3次元形状を計測します。

モデル化

3次元計測したままのデータは、測られた人(被験者)によってデータ数が異なっています。 そこで、すべての個体が同じ数のデータ点をもつだけでなく、各データ点がどの個体でも解剖学的に同じ意味をもつように、各被験者の表面形状のデジタルモデルを作ります(データ点の再構成をする)。 人台作成のための体幹部形状分析では、解剖学的特徴点や基準断面を利用して、図2のような約500個のデータ点からなるデジタルモデルを作りました。

体幹部のデジタルモデル
図2: 体幹部のデジタルモデル

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平均形態モデルの計算

デジタルヒューマン研究センターで開発した形態変換技術「Free Form Deformation(FFD)法」を利用して、3次元形状モデルを平均化します。 これにより、「若い女性集団全体の特徴を持ちながら、特定の個人の特徴を持たないような形状」を得ることができます。

Free Form Deformation(FFD)法とは、3次元物体の周辺に制御格子点を設定し、制御格子点を移動することによって、物体の形状をなめらかに変換する、コンピュータグラフィクスの方法です。

FFD法による形態変換
図3: FFD法による形態変換

このとき、変形された形態ではなく、変形した格子を考えると、変形後の歪んだ格子は、2つの形態の違いを表現する関数だとみなすことができます。 もし、最初の形(初期形態)と変形後の形(目標形態)が、どちらも人体の形状で、同じ数、同じトポロジーのデータ点から成るデジタルモデルならば、初期形態が目標形態に一致するように変形させる格子点の動きを、計算できることができます。

図4は、足の3次元形状を174点のデータ点から成るデジタルモデルにし、初期形態(青)を目標形態(赤)に変換するような、格子点の移動を計算した例です。 2つの形態がよく似ていれば、格子を少し動かしただけで2つの形態は一致します。 しかし、あまり似ていない場合は格子をたくさん動かさないと、2つの形態は一致しません。 したがって、格子点の移動量を使って、2つの足の間の形態距離を定義することができます。

初期形態(青)を目標形態(赤)に変換する変形格子
図4: 初期形態(青)を目標形態(赤)に変換する変形格子

変形格子は、2つの形態の違いに関する情報をもっているので、これを製品の形の設計に利用することも可能です。 図5は、応用イメージです。 標準的な形をした人(Group A)にフィットする製品(Group Aにフィットする製品)があり、標準的でない形をした人(Group B)がいるとします。 このとき、標準的な人にフィットする製品を、標準的な人(Group A)の形態を標準的でない人(Group B)の形態変換する関数で変形することにより、標準的でない人(Group B)にフィットする製品を設計しよう、というわけです。

形態変換関数の応用イメージ
図5: 形態変換関数の応用イメージ

詳細な平均形態の計算

得られたモデルは、かなり粗いものです。 そこで、被験者の中から中央値形態を1名選びます。 中央値形態は、形態変換技術を利用して定義した個体間の形態距離のばらつきが、最も小さい被験者とします。 中央値形態は実在の被験者ですから、詳細な表面形状データが手に入ります。 中央値形態を平均形態に変換する関数を求め、この関数で中央値形態の詳細データを変換することにより、下図のような詳細な平均形態のデータが計算できます。

詳細な平均形態
図6: 詳細な平均形態

こうして得られた平均形態を光造形法により実体化し、道具として使いやすいように手で修正します。 具体的には、鎖骨の上や臍などのくぼみ、股の間などを埋めます。 得られた修正平均形態をもと型として、人台を作成します。

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人台の評価

開発された人台が、1)実際に現代の若い女性の体形を反映しているか、2)現代の若い女性にフィットする衣服の製作に役立つかを、評価しました。 1)については、シルエッター写真から得られる2つの角度項目(図7の胸部傾斜角度と骨盤部傾斜角度)が、青年女性452名について測られた2つの角度の平均値に近いかどうかを調べました。 新しい人台の2つの角度は、実際の女性の平均値とほぼ等しいことがわかります。

図7: 背面と腰部の傾斜角度
図7: 背面と腰部の傾斜角度

2)については、文化服装学院において、文化式の原型を青年女子231名それぞれにフィットするよう修正し、それら修正結果に基づいて、原型を修正しました。 こうして作られた新しい原型が、新しい人台にフィットするかどうかを調べました。 図8のとおり、新しい原型は新しい人台にフィットしているのに対し、既存の人台に着せた場合は、ウエストラインが前下がりになっていることがわかります。

文化式の新しい原型
図8: 文化式の新しい原型。A: 新しい人台、B: 既存の人台。

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縮小サイズの人台

1/4サイズの人台

デジタルモデルは拡大縮小が簡単にできるのが特徴です。 文化服装学院では、写真のような1/4サイズの人台も開発し、型紙設計の授業で使っています。

その他の人台開発

上記の人台は女性のJIS9ARサイズのものです。 その後、同じ技術を使って2004年に青年男性用人台(文化服装学院と共同研究)を、2008年に中年女性用人台(文化服装学院、ニッセンと共同研究)を開発しました。

(左)青年男性用ダミー  (右)中年女性用ダミー

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文献

人台開発担当企業等

新しい人台は、文化服装学院購買部から購入できます

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