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研究内容

足の形態特徴と適合靴

あなたの履いている靴はあなたの足に合っているでしょうか? デジタルヒューマン研究センター(旧名称: 生命工学工業技術研究所)では、日本人の足の形態特徴を分析し、日本人の足に適合した靴の設計手法に関する研究をしております。

足、靴型、靴

どうして足に合った靴が見つからないの?

あなたは自分の足にフィットしたお気に入りの靴を何足持っていますか? なかなか足に合った靴が手に入らないというのが実状ですね。 みなさんの足に合わせるための靴のサイズのJIS規格や、靴の形を決める靴型の話をして、どうやって足と靴の適合性を高めていこうとしているのかを説明します。

靴サイズのJIS規格

日本の靴はその大きさがJISで規格化されており、靴の長さを表す足長と、足囲(ウィズといいます)で決まっています。 靴のサイズは、靴そのものの大きさではなく、靴に適合する足のサイズで規定されています。 通常、長さはcm単位で表されています。 靴を買うときの、25.5などの表示が足長です。 一方、同じ足長の足でも、足囲はさまざまです。 そこで、ひとつの足長に対し、複数のウィズが規格化されています。 各足長に対応する平均的なウィズは"E"という表示で表わされています。 足囲が大きくなるにしたがって、"EE", "EEE","EEEE", "F", "G"という表示になります。 また、小さくなると"D", "C", "B", "A"となっていきます。

日本人のさまざまな足寸法に対応するために、靴のサイズは5mmごとに、ウィズの方は足長が5mm大きくなるごとに3mmずつ大きくなるようになっています。 つまり、25.5cmのEに対応する足囲は、25.0cmのEの足囲よりも3mm長いというわけです。 現在のJIS規格では、成人男子で20Eから30Gまで、成人女子で19.5Aから27EEEEまで、また子供では10.5Bから26Gまでのものが規格化されています。 ただ、現実には、足長19.5のウィズAなどという靴は、お店ではまず見つかりません。 JIS規格はあっても、実際に靴が作られ流通しているとは限りません。 これは、日本人の足長と足囲の分布にも大きく関わっていることなのです。

靴の形の基本−靴型

さて、いろいろなサイズの靴はどのようにして作られているのでしょうか。 靴の種類によっても異なりますが、革製の紳士靴や婦人靴では、それぞれの足長−ウィズの組み合わせごとに用意された靴型とよばれる樹脂型の上に、直接、革を張って作っていきます。 図に示したのがもと型となる靴型です。 ですから、この靴型が皆さんの足に適合していなければ、いくら靴のデザインを工夫したところで足に合う靴は作れないのです。

靴型

足に合う靴をどうやって作るか

できるだけ多くの日本人に満足して貰えるような靴をつくるにはどうすればよいか、われわれデジタルヒューマン研究センターでは、靴業界の人達が、適合靴を設計することができるように、日本人の足のデータを集め、それに基づいて適合靴を設計するための方針を明らかにすることを研究の目的としました。 上で述べたように、適合する靴の条件は、足と靴の足長,ウィズが一致していること、そして靴型の形が足の形に適合していることです。 われわれは、日本人の足の寸法調査を行うとともに、足の形状特徴を調べ、それを靴のもと型である靴型設計に反映させる方法論を開発しました。

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足のサイズ測定法

靴のJIS規格では、靴の長さを表す足長と、周囲長を表すウィズでサイズが規定されています。 これに対応して、皆さんの足にもそれぞれ足長と足囲があるわけです。 ここでは、靴のJIS規格に対応した足の寸法の測り方について説明します。

足の寸法計測

足寸法の計測は、被験者(寸法を計測される人)が裸足で自然に立った姿勢で行います。 自然に立つということは、両足を少し開いて、両足に均等に体重がかかるように立つということです。

足長

足長は、踵点(踵の一番後方の点)と一番長い指の先(第1指が長い人と第2指が長い人がいます)との間の長さを、足軸に平行に測ります。 足軸とは、踵点と第2指先端(足の人差し指の先)を結ぶ軸のことです。

足囲(ボール囲) − ウィズ

足囲は、脛側中足点(第一中足骨頭、つまり親指の付け根のところの骨のふくらみのうち、最も内側に飛び出している点)と腓側中足点(第五中足骨頭、つまり小指の付け根のところの骨のふくらみのうち、最も外側に飛び出している点)とを通るように測った、足の周囲長のことです。

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若い人の足は長く細くなっている

デジタルヒューマン研究センターでは、日本皮革産業連合会の1987年のデータを基に、成人男女合わせて約1000人の足長と足囲の分布状態を調査しました。 若い世代の日本人の足は、より細く、長くなっているようです。

日本人の平均足サイズ

足のサイズの分布は、靴の生産計画に大きく関連しています。 消費者を満足させるために、どのサイズの靴をどれくらい揃えればいいのかということで、生産を効率化できます。 足のサイズのばらつきは大きいのですが、その分布はおおむね正規分布です。 下に、日本人成人のサイズの平均と標準偏差を示します。 これらのデータは、日本皮革産業連合会(JLIA)で1987年に行った調査の結果と、製品科学研究所(IPRI)で1991~1992年に400人以上の20歳前後の成人を計測した結果に基づくものです。

日本の成人男子(18-60歳)の足長は21.1~28.7cm、足囲は19.0~30.2cmの間に分布しています。

男性データ

日本の成人女子(18-60歳)の足長は19.4~26.3cm、足囲は19.8~26.3cmの間に分布しています。

女性データ

なお、足長が同じならば、女性の足は男性の足よりも細いのです。

足のサイズ分布

足のサイズ分布

図は日本皮革産業連合会が1987年に行った調査の結果に基づく足のサイズ分布です。 成人男子で最も多いのは25EEであることがわかります。 成人女子では23Eでした。 足長の大きな人や小さな人、あるいは非常に足の幅が広い人や狭い人は、自分に合う靴を見つけるのが困難だと思います。 それはこの分布を見てわかるように、そのようなサイズの人の数が少ないからなのです。 工業製品は、すべてのサイズをカバーできるように考えられていますが、現実的には生産流通などのコストの関係で、人数の少ないグループに適合する商品はなかなか見つからないのです。

年齢によるサイズ分布の違い

世代ごとのサイズ分布

日本人の平均身長は、この100年間で10cm以上も伸びました。 足のサイズもこの100年間で大きく変化しています。 ですから、計測したデータにも世代間格差があるわけです。 図に、若い世代と壮年以上の世代のサイズ分布を示します。 若い世代では、灰色の部分の人数が多くなっています。 これは、若い人の足が長く、そして細くなっていることを示しています。 若い人をターゲットにした靴の場合は、全体平均よりも大きく細い靴を多めに生産する必要があるということです。

元データはこちら

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足のアロメトリー

アロメトリーとはなんでしょうか? 足が大きくなるとき、数学的な相似形を保って大きくなるわけではありません。 そのような大きさにともなうプロポーションの変化をアロメトリーといいます。 足長の大きい若い人では足の細身傾向が一層はっきりします。

アロメトリーって?

プロポーションの変化

アロメトリーとはサイズの変化にともなってプロポーションが変わることをいいます。 これは生物一般に広く見られる現象です。 図では、テナガコガネの手の長さと体長の比が体長によって異なり、大きい虫ほど手が長いのがよくわかります。

足のアロメトリー

同じように、小さい足と大きな足ではプロポーションが違います。 大きな足では、もちろん絶対的には小さな足よりも足囲が大きいのですが、相対的には細身になっています。

足の大小によるプロポーションの違い

靴は靴型の上に革を張って作りますが、もと型である靴型は基本的に手作業で作っています。 そして、基本寸法の靴型から、いろいろな足長やウィズの靴型を作り出すわけです。 サイズの違う靴型を作る作業をグレーディングと呼びます。 足のアロメトリーは、このような靴型のグレーディングと深い関係があり、アロメトリーに基づいたグレーディングを行わないと、大きな足や小さい足の人の適合性は向上しないのです。

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子供の頃から進む指の変形

日本人の足の親指と小指の曲がり角度が年齢とともに増加していることがわかりました。 学齢期にはいってから20歳までの間に、指はどんどん先すぼまりになっていきます。 もちろん、外反母趾として問題になるほどではありませんが、外反母趾予備群が増えていくのは間違いなさそうです。

足長・足囲 の成長

足長と足囲は、比較的早い年齢で成長が止まります。 男子では14歳、女子では13歳頃で、いずれも身長の成長が止まる年齢よりも早い年齢で成長が止まることになります。

右足長の成長

指先の形の年齢変化

指先の部分の足の形が年齢とともにどう変わっていくかを見てみましょう。 ここでは、第1指側角度(Toe I Angle)と第5指側角度(Toe V Angle)を定義しました。 第1指側角度は、足の親指が足軸よりに曲がる角度です。 第5指側角度は、足の小指が足軸よりに曲がる角度になります。 第1指側角度が大きくなると、いわゆる外反母趾の症状になります。 グラフを見て一目瞭然。 どちらの角度も、子供の頃に急激に増大しています。 つまり、産まれたときはまっすぐだった足の指先が、学齢期にどんどんと曲がっていく様子が分かります。 もちろん、この程度の屈曲角度であれば、外反母趾と呼ばれるような症状ではありませんが、その予備群であるとも言えます。 小中学生の時代に履く靴が、このような傾向に無関係であるはずはないでしょう。

第1指側角度・第5指側角度

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日本人の半分は足が曲がっている!?

足長やウィズをいくら合わせても、足の形と靴型の形があっていなければ、適合性は向上しません。 そこで、デジタルヒューマン研究センターでは、日本皮革産業連合会の1987年のデータを基に、成人男女合わせて約1000人の足の輪郭形状の特徴を調査しました。 その結果、日本人の半分以上は、足の中心軸が曲がっていて、踵が外側に振れていることがわかりました。 市販されている靴型は中心軸がまっすぐですから、このままでは適合しませんね。

2次元足形状特徴

足の形の特徴を調べるために、足の輪郭図の中心軸の曲がり具合を評価しました。 足の輪郭図は、図のようなスクライバーという道具を使って、足の下に敷いた紙に写し取られます。

スクライバーでの計測

この輪郭線形状をスキャナで読みとり、輪郭線画像の骨格化という処理を行います。 これは、画像処理の一手法で、輪郭線の中点に相当するような点列を得ることができます。 この点列を、3つの区間に分割して、それぞれ回帰直線を求めます。 この回帰直線のなす角度が前方屈曲角度(Anterior Flexion Angle)、後方屈曲角度(Posterior Flexion Angle)です。 特に、後方屈曲角度は、踵の振れと、土踏まずのちょっと上にある舟状骨という骨の出っ張り具合を評価するのに適した指標です。

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後方屈曲角度の分布

日本皮革連合会が1987年に採取した足の輪郭データに基づき、日本人男女合わせて約1000人の足軸屈曲角度を調査しました。 踵のふれを示す後方屈曲角度は、男子の平均が8.4°、女子の平均が8.2°で、標準偏差はそれぞれ4.03°、3.79°でした。 後方屈曲角度の分布と、代表的な輪郭図を図に示します。 実に、日本人の半分の人が、曲がった足軸をしていることになります。 現在市販されている靴の靴型は、すべて足軸がまっすぐで、この分布図でいうと左端の人に適合するような靴型だと言うことになります。 踵が大きく振れているような人(右端に近い人)が、この靴型で作られた靴を履くと、踵の部分で靴を履き、指先の部分で形のずれを吸収しようとしますから、小指側が当たって痛いというようなことになります。 心当たりがありますか? あなたの足軸も曲がっているのかも知れません。

後方屈曲角度の分布

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あなたの足は標準型?それとも扁平型?

足の3次元形状計測を行い、足底の2次元的な形状だけでなく、足全体の3次元形状を分析しました。 その結果、日本人の足の形で最も重要な個人差は、足軸がまっすぐで甲の高い標準型と、足軸が曲がっていて甲の低い扁平型を区別するものであることが分かりました。 標準型の人は、現在の直線型の靴型でも履くことができますが、扁平型の人は適合性に関する不満が募っていると思います。

足の3次元形状特徴分

足底の輪郭線による分析は直感的ですが、あくまでも平面的・2次元的な分析です。 われわれの足は、複雑な3次元形状をしているわけで、最終的には3次元の形状分析をしなければなりません。 そこで、われわれは1990年~1991年にかけて約50人の被験者の足部3次元形状を計測しました。 計測に利用したのは、GRASP※という3次元形状計測装置です。 計測したデータを足軸に直交する断面に切り分け、断面の傾きや幅、高さ、さらに足部輪郭図での舟状骨(Navicular Bone)の出っ張り具合など、数多くの形状パラメータを計算し、統計処理しました。

※形状計測装置GRASP…物体の3次元形状を計測する装置です。 物体表面に、縞状のパターン光を投光し、投光器とは別の方向からカメラで縞のパターンを捉えます。 投光する位置とカメラで捉える位置が異なるので、投光した縞は、物体の表面形状に沿って曲がって見えることになります。 これを三角測量の原理で定量化すると、それぞれの縞の奥行き寸法を計算でき、物体の形状を計測できるという仕組みです。 本研究で使用したものは、テクノアーツ社製のGRASPというシステムです。 上の図の背の高い装置の下の方に縞状パターンを投光する投光器があり、上の方にカメラがあります。 カメラで捉えた縞パターンの画像はパーソナルコンピュータで解析処理し、3次元形状データとして保存されます。 実際には、この投光器とカメラのセットを2セット用いて、両側から足形状を計測しました。

足の3次元形状特徴分析

日本人の足形状のステレオタイプ

形状特徴パラメータを主成分分析した結果、足部形状の個人差のうち、最も重要なものは図に示すような2タイプの足型を区別するようなものであることが分かりました。 1つは図中の赤い線で描かれたようなタイプで、甲が高く足軸がまっすぐで、後ろから見たときに踵が内側に倒れ込まないような足形状です。 これを標準型と呼ぶことにしましょう。 もう1つは、甲が低く足軸が曲がっていて、後方から見たときに踵が内側に倒れ込んでいるような形の人です。 図中の青い線が代表例で、いわゆる扁平足です。 足というと、標準型のような形状を自然に思い浮かべてしまうせいか、市販の靴型は標準型の足に合うように設計されているようです。 扁平型の人がこの靴を履くとなにかと不満が募るのも当然といえます。

標準型と扁平型

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適合する靴型設計に向けて

足軸の曲がった人に対応した靴型が設計できるように、そして足の形状特徴まで考慮したタイプ分けができるように、デジタルヒューマン研究センターではComputer Graphics分野のFree Form Deformation技術を応用した足の形状類似度分類と、適合靴型設計手法の開発を行っています。

Free Form Deformation法による靴型変換

人の足の形が、さまざまな特徴を持っていることが分かりました。 これをどのようにして靴型の設計に反映させるか、これが一番の課題です。 デジタルヒューマン研究センターでは、Free Form Deformation法(以下FFD法)と呼ばれるComputer Graphicsの技術を使って、足の形状特徴をそのまま靴型に反映させる手法の開発を行っています。

FFD法は、形状の廻りに制御格子点を定義し、制御格子点の移動によって物体を変形させる技術で、Morphingと呼ばれる形状変換技術の一手法です。 下の図のように、標準的な足形状の廻りに制御格子点を設定し、これを移動させて標準足形状を扁平足形状に変換するようにします。 このとき、制御格子点の移動量は、標準足→扁平足の変換を行う空間歪み関数のようなものであると考えることができます。

したがって、この歪み関数の空間内に、標準足に適合する既存の靴型を置いてやれば、扁平足に適合する新しい靴型が取得できると考えています。

Free Form Deformation法による靴型変換

標準足から扁平足への変換

実際に、標準足の代表的な足形状(青)から、扁平足の代表的な足形状(赤)に変換するための制御格子点の移動量を計算した結果です。 制御格子点の移動パターンは、そのまま2つの形態の相違のパターンでもあります。 上から見ると格子点はS字に曲がっており、足軸の曲がりを反映しています。 横から見ると、格子点は足首のある部分で(足根部といいます)足を上から潰すような方向に大きく移動しており、甲の高さが低いという特徴を反映しています。

標準足から扁平足への変換

扁平靴型の生成

上で算出した制御格子点の中に、標準的な足に適合する既存の靴型のデータを入れてみました。 制御格子点の歪みによって靴型は変形を受け、扁平足に適合するような靴型形状を得ることができました。 もっとも、これはあくまでも足の特徴だけを考慮したもので、実際には、靴型本来の製品特徴や機能を考慮しながら、製品として適するように変形を加えていかなければなりません。 これらを今後の課題として、研究を続けております。

扁平靴型の生成

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