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歩行中の転倒に関する研究

概要

歩行中の転倒は,人が健康を損なう大きな要因の一つで,全ての年代の人にとって減少させたい事故の一つとなっています.

そこで我々は以下の3つの観点から,転倒に関する研究を行っております.

①人はなぜ,どのように転ぶのか,どのような人や環境が転びやすいのか(転倒原因に関する研究)
②転びやすさの評価とフィードバック(転倒リスクの見える化)
③どのようにすれば転ばなくなるのか(転倒予防)

キーワード: 転倒,つまずき,転倒予防,介入,知覚特性評価

背景

転倒の発生数

人口の高齢化に伴い,転倒が大きな社会問題となっております.

家庭内での転倒による死亡者数の推移

こちらのグラフは,2000年から2009年の間に,家庭内での転倒が主な原因で亡くなった方の人数を表しています1)-10). 近年,その数が徐々に増えてきているのがご覧いただけるかと思います. また,このグラフに示されているのは家庭内での転倒による死亡者数だけですが,それ以外にも屋外での転倒による死亡者や,屋内外での死亡には至らなかった転倒,もしくは転倒には至らなかったヒヤリハットなども含めると,相当な数になることが予想されます.

また,先行研究11)によると,転倒に伴う大腿骨頚部骨折1件当たりの医療費は132万円程度と報告されておりますから,転倒を減らすことは医療費を削減するという観点からも急ぎ達成する必要があるのです.

では,転倒とは具体的にどのような現象で,なぜ生じるのでしょうか?

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転倒とその原因について

様々な文献を集約すると,転倒とは「自らの意志ではなく,膝もしくはそれよりも上部の身体部位が地面もしくはそれよりも低い個所に接触する現象」と定義できます[例えば12)~14)] .

statue of falling

そのため,上の写真のような状態はまだ転倒には至っていないと考えることができます[この像はベルギー・ブリュッセル市内にあるTom FrantzenによるVaartkapoen,1985]. その理由は,この後誰かが体を支えてくれるかもしれませんし,左足が前にでて体勢を立て直すかもしれないためです(体勢を立て直すことをリカバリーと言います).

転倒は何の前触れもなく発生するものではなく,必ず何らかのきっかけを伴います. そのきっかけについては,実際に転倒を経験した方々に対するヒアリング調査などで調べられており,もっとも主要なきっかけが歩行中の「つまずき」であることが報告されています12),14)-15). 更に興味深いことに,つまずきが転倒のもっとも主要な要因であることは,国内でも,海外でも同じです. このことから,歩行中のつまずきを減らすことができれば,転倒そのものの発生数もかなりの数減少させることができると考えられます. このような観点から,我々は歩行中のつまずきに焦点を当てて研究を行っております.

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歩行中のつまずきについて

つまずきとは,一般的には遊脚期に足部(主につま先)が地面と接触する現象と理解されてると思いますが,実は明確に定義している文献は意外とありません. 我々が知る限りでも,オーストラリアの研究者らが彼らの論文16)の中で,「A trip occurs when an external force unexpectedly interrupts the progress of the swing foot during walking causing a forward rotation of the body which must be arrested to prevent a fall」と記しているのと,同じ研究チームの別の研究者17)が「Trips occur when the swing foot contacts an object or the ground」という記述を別の論文14)からの引用として記している程度です(但し,2番目の定義については,元の論文14)にそのような記述が見当たらないのですが・・・).

また,我々が知る限り,日本語での定義が見当たりません. そこで我々は上記の定義を参考にして,つまずきとは「遊脚期に足部が不意に床面もしくは何らかの物体に接触することで,転倒のきっかけになりえる現象」と定義しています.

このように,つまずきとは歩行中の遊脚期に足部と床面(もしくは何らかの障害物など)とが不意に接触する現象であるため,「歩行中の遊脚期における足底部と床面との距離」,特に,遊脚中期から後期にかけて観られる足部クリアランスの最小値は,最小足部クリアランス(Minimum Foot Clearance: MFC)や,最小つま先クリアランス(Minimum Toe Clearance: MTC),もしくは最低つま先高さ(Minimum Toe Height: MTH)などと呼ばれており,平地歩行時のつまずきやすさを表す指標として着目されています(我々はこれらをまとめて最小つま先クリアランス(MTC)と呼んでいます). 次のグラフは一歩行周期中のつま先と踵の軌跡を示しています.

trajectory of toe and heel

このように,遊脚期につま先(正確には中足骨頭付近)はM字の軌跡を描きます. 更に下の図に示す通り,MTCが観られる時期は遊脚側が次の支持面を形成するために立脚側を追い越す時期と重なっているため,遊脚と立脚の双方が重心よりも前方につま先があります. そのためこの時期につまずきが生じると,その後前方に移動する身体重心を支えることが難しくなるため,その他の時期につまずいた場合よりも転倒に至るリスクが高くなってしまいます.

stcik picture of lower limb at the timing of the MTC

以上のようにMTCに着目することで歩行中のつまずきやすさを調べることができるのです.

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デジタルヒューマン工学研究センターの研究

転倒原因に関する研究

工事中

転倒リスクの見える化

上記のように,MTCはつまずきやすさと密接に関連しているので,MTCを介して個々人の転びやすさを評価し,フィードバックすることができます. しかし実際に足部クリアランスを計測・評価することは簡単ではありません. 一般的にはモーションキャプチャシステムなどといった専門の道具を使ってつま先の軌跡を計測し,そこからMTCを抽出しなければなりません. それには専門的な技術や知識が必要です. そこで我々は,歩行中に簡単に計測できるデータからMTCを推定する装置を開発しました.

The MTC Estimation System

現在は,歩行中に計測される床反力から,約3.8mmの誤差でMTCを推定できるようになっております. この誤差は,一般的なMTCの分布における1σの範囲内であるため,まずまずの精度であると考えています. 今後は推定精度を更に向上させるとともに,どのようなデータをフィードバックすればよいかなどについて研究を続ける予定です.

③どのようにすれば転ばなくなるのか(転倒予防)

工事中

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業績

論文・学会発表・講演・執筆

受賞

報道

このページの内容に関する参考文献

1)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成12年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii00/index.html,2001(最終アクセス2012/2/24)

2)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成13年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii01/index.html,2002(最終アクセス2012/2/24)

3)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成14年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii02/index.html,2003(最終アクセス2012/2/24)

4)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成15年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii03/index.html,2004(最終アクセス2012/2/24)

5)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成16年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii04/index.html,2005(最終アクセス2012/2/24)

6)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成17年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii05/index.html,2006(最終アクセス2012/2/24)

7)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成18年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii06/index.html,2007(最終アクセス2012/2/24)

8)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成19年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii07/index.html,2008(最終アクセス2012/2/24)

9)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成20年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii08/index.html,2009(最終アクセス2011/7/19)

10)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課,平成21年人口動態統計,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/index.html,2010(最終アクセス2012/2/24)

11)林泰史:転倒を取り巻く社会情勢 転倒の医療経済に及ぼす影響. MB Med Reha 65: 1-9, 2006.

12)近藤敏,他:在宅高齢者の転倒と転倒恐怖. OTジャーナル33:839-844,1999.

13)眞野行生編:高齢者の転倒とその対策,医歯薬出版株式会社,1999

14)Tinetti ME, Speechley M, Ginter SF: Risk factors for falls among elderly persons living in the community. N Eng J Med 319: 1701-1707, 1988

15)武藤芳照,他:在宅高齢者の転倒・転落事故要因に関する研究. 交通安全対策振興助成研究報告書(一般研究)14:114-120,1999

16)Barrett RS, Mills PM, Begg RK: A systematic review of the effect of ageing and falls history on minimum foot clearance characteristics during level walking. Gait & Posture 32: 429-435, 2010

17)Mills PM, Barrett RS, Morrison S: Toe clearance variability during walking in young and elderly men. Gait & Posture 28: 101-107, 2008

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